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物語を愛するすべてのひとたちへ-小説すばる

2018年4月号 小説すばる

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【著者インタビュー】
朽木誠一郎
『健康を食い物にするメディアたち』

 

――本書にも詳しく書かれていますが、朽木さんはWELQの問題を最初に記事にされました。どんな問題だったのでしょうか。

朽木 WELQはネットの医療情報メディアなのですが、専門家ではない人が書いた不正確な医療記事を大量に配信し、それらが検索上位に表示されるよう工夫していました。社会問題となり、運営元のDeNA社は過ちを認めてサイトを閉鎖しました。

――問題に気づいたきっかけは何でしたか。

朽木 病名を検索すると必ず上位に表示されるとSNSで話題になっていて、試したら本当だったんです。記事は誰が書いたかも分からず、運営元も内容に責任を取らないと記載していて。これは大丈夫かなと思い記事にしました。ネットメディアのBuzzFeedが幸運にもそれを見つけてくれて、詳しい続報を書いたんです。報道は新聞やテレビにも広がっていき、行政なども問題に気づきました。一年ほどかかりましたが、最終的にグーグルも「医療関係の検索上位には信頼性の高いサイトを表示する」という形にシステムを変更したんです。

――ご自身が提起した問題が広がっていくことは嬉しかったですか。

朽木 いえ、実は怖かったです。自分が指摘したことが広がっていき、それが他人の人生を変えてしまうんです。サイトの閉鎖で転職を余儀なくされた方もいますので。今までライターという仕事をやってきて、そういうことは初めてだったんです。だけど、この問題を放置していたら、不正確な医療情報でもっと大きな不利益を被る人が出てくる。書き手として覚悟を決めて医療の問題に取り組まなければいけないと思い、信頼できる医療情報の発信に注力しているBuzzFeedへの入社を決めました。

――本書は「非科学的なダイエット法や怪しいがんの治療法など、誤った情報やデマが蔓延している今、医療情報とどう付き合えばいいのか」が大きなテーマとなっています。なぜ私たちは医療デマを信じてしまうのでしょうか。

朽木 人は信じたいものを信じてしまう、というのが大きいと考えています。そしてネット時代は、受け取る情報にもバイアスがかかるので、そういう情報にばかり触れてしまいます。フォローする人を選べるツイッターはもちろんのこと、グーグルの検索結果やニュースアプリが自分用にカスタマイズされていることを知らない人は多いのではないでしょうか。
 さらに「騙されていることすら気づかない」ということもあるかもしれません。実は、僕にも経験があるんです。体脂肪を燃やすという触れこみのドリンクを愛飲していたんですが、ある時ふと、全然実感がないぞと思ったんです。そこで根拠となる論文を調べてみたら、マウス実験のものでした。その結果が人間にそのまま適用できるわけではないのに。なんでこんなことを信じていたんだろうと衝撃でした。多少なりとも医療に詳しいはずの僕にも、疑うことができませんでした。

――本書の中では、疑うために有用なテクニックが数多く紹介されています。健康食品や民間療法の情報を目にしたとき、「奇跡」「先端」「ラクに」「すぐに」といったワードが出たらまず疑えなど、目から鱗でした。

朽木 騙されていることに気づくためには科学的であることを見分けるフィルターを持たなくてはいけないと思っています。しかし、騙されていることに気づかないとフィルターを使うという意識も働きません。鶏と卵のようになっているのが難しいのですが。ただ、この本を読んで頂ければ、「みんな騙されている」という今の状況に気づけるのではないかと思います。どのような医療デマが広がっているか、そして騙そうとする人の手法も具体的に書きました。

――非科学的なものを疑うことが大切だということでしょうか。

朽木 そうなのですが、一方で、科学的じゃないことを信じる人を非難することは違うと思っています。科学にも限界がありますし、そういう人を攻撃しても何も変わらない。例えばつい科学と対立したものと考えてしまいがちですが、スピリチュアルなものが病気の人の心を救う可能性もあります。ただ、病気を治そうとしたときに、科学的に確立された「標準治療」が最も治る可能性が高いということは大前提として知ってほしいです。標準治療=最善の治療なので。一方で、医療デマのない世の中も作っていかなくてはいけないです。

――どうすれば良いのでしょうか。

朽木 ネット時代はデマが拡散しやすいという面もあるのですが、逆にネットがあるから自浄作用が働くというのもあります。デマを正すこともできるんです。そのために大切なのは、気づいた人がおかしいぞと声を上げること。そしてその声を皆がリレーのように繫げていくことです。繫いでいくことで、検証能力を持った人や発信力を持った人に届きます。WELQ問題がそうだったように。僕という個人が発信したことが繫がっていき、色々な人の力で社会が動きました。僕も情報を繫ぐ一人の担い手として、これからも医療情報を発信していきます。それが僕の使命だと思っています。

 

くちき・せいいちろう ◆ 記者・ライター。BuzzFeed Japan所属。群馬大学医学部在学中にフリーライターとしてのキャリアをスタートし、卒業後は新卒でメディア運営企業に入社。その後、編集プロダクションのノオトを経て、現職。

『健康を食い物にするメディアたち』

私たちは、騙されている――。効果がないのに、あるかのように宣伝する健康食品。科学的根拠がない療法を紹介する健康本やメディア。ネット時代になり、健康になりたい人を騙す人に有利な状況が続いている。なぜ私たちは医療デマを信じてしまうのか、その構造を解き明かすとともに、デマのない社会を作るための具体的な方法を提言。

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