close

物語を愛するすべてのひとたちへ-小説すばる

2017年6月号 小説すばる

試し読み一覧はこちら

【短編】松崎有理「惑星Xの憂鬱」

【ノンフィクション】伊与原新「2030年宇宙の旅―地球外生命を求めて―」

 一人で星空を眺めるとき、人は思う。孤独だ、と。
 となりに誰かいても、感じるだろう。我々は孤独だ、と。この茫漠とした宇宙の片隅で、我々だけが地球という孤島に生きている。なんとさびしいことか。
 しかし、と人は考える。それは本当だろうか。あの星々の中には、地球と似たような惑星があって、誰かが同じようにこちらを眺めているのではないか。誰かというのはもちろん、「地球外生命」ということになる。
 そんな想像力が、数多のSF作品を生んだ。古くは『宇宙戦争』から、『未知との遭遇』、『E.T.』、最近では五月に公開された『メッセージ』まで。中でも、本稿を始めるにあたってどうしても紹介したい小説がある。巨匠アーサー・C・クラークによる名作『2001年宇宙の旅』の続編、『2010年宇宙の旅』だ。まずは一節を引用したい。

「……地球に中継していただきたい。チエン号は三時間前に崩壊した。わたしはたったひとりの生残りだ。(中略)どうか注意して聞いていただきたい。エウロパには生命が存在する。くりかえす――エウロパには生命が存在する……」

 木星の衛星、エウロパに着陸した中国の宇宙船チエン号が、氷の下の海に潜む謎の巨大生物に襲われ、救難信号を発する場面だ。ここを読んで肌が粟立ったのは、緊迫感あふれる描写のためだけではない。この作品がただのSFではなく、〝アストロバイオロジー小説〟だと確信したからだ。
 アストロバイオロジー。直訳すれば、宇宙生物学。そう聞くと、エイリアンやUFOを想像する人も多いだろう。うさん臭いと思われても仕方がない。ひと昔前までは、科学者たちの間でもそうだったのだから。
 その学問の中身をひとことで言うと、地球外まで拡張した生命圏を研究する分野、ということになる。地球外生命を探すこともメインテーマのひとつだ。この分野はもはや、妄想や夢物語の世界ではない。天文学、地球惑星科学、生物学の融合領域として、先端科学の大きなフロンティアになっている。かつてはSF作家たちの独壇場だった舞台に、科学者たちが実際に望遠鏡を向け、探査機を送って、心躍るようなデータを次々と手にしているのだ。
 日本のアストロバイオロジーを惑星科学の立場から牽引しているのが、東京大学の関根康人准教授。まだ三十八歳という若さだ。東京大学とNASAエイムズ研究所で研究を続け、『ネイチャー』など科学のトップジャーナルにインパクトのある論文を次々に発表している。私は関根氏を学生時代からよく知っているが、その素顔はパンク・ロックを愛する浅草育ちの好青年だ。人々が科学者に抱く、堅苦しい、変人、オタクといったイメージとは無縁である。
 関根氏によれば、地球外生命探査にとって大きなエポックが、二〇三〇年代にやってくるという。一つは、NASAが実現を目指している、火星有人探査だ。今もキュリオシティという無人探査車が赤い大地を走り回っているが、生命の痕跡を発見するには至っていない。それでもやはり、火星は――とくにその地下は、何らかの微生物が存在する場所として有望だという。実際に人間が行ってサンプルを採るということになれば、期待が持てる。
 ターゲットは火星だけではない。科学者たちは、より遠くの天体にまで探索の手を伸ばすべく、着々と準備を進めている。今回、関根氏の研究室を訪ね、その「2030年宇宙の旅」が我々にどんな景色を見せてくれるのか、話を聞いた。

 

(続きは本誌でお楽しみください。)

試し読み一覧はこちら

【短編】松崎有理「惑星Xの憂鬱」

閉じる