close

物語を愛するすべてのひとたちへ-小説すばる

2017年3月号 小説すばる

試し読み一覧はこちら

【新連載】逢坂剛「百舌落とし」

【レポート】木下古栗シークレット読書会

004

 2017年1月14日、木下古栗さんの『生成不純文学』刊行を記念して、シークレット読書会が開かれた。会場は新宿三丁目の「ネコ文壇バー 月に吠える」(現在は閉店)。集まったのは、ツイッターで公募した古栗作品を愛する13人の読者たち。ゲーム作家の米光一成さんが司会進行を務めた。
 古栗さんが選曲したオープニング曲、80年代フレンチポップス「Sage Comme Une Image」が流れ、古栗さん差し入れの甘栗を食べながらのスタート。まずは自己紹介を兼ねて事前に書いてきた130字程度の感想を各自が読み上げた。

■「虹色ノート」
宇宙的視座からOLの日常、謎めいたノートに記された記録へと一気にフォーカスしていく様には期待以上のドライブ感がありました。そういえばガストロノミーとスカトロジーってカタカナの字面が似てますね。ノートを彩る絵の具はもしかして。(水野)

■「人間性の宝石 茂林健二郎」
「よーし、今日も一発シャブ打つぞー!」で始められる作家は、世界広しとはいえ木下古栗以外いないんじゃないだろうか。自分の存在を全世界に遍在させようとする茂林健二郎の破天荒さが描かれる。木下古栗流の情熱大陸。とある方から怒られないかだけが心配。(小林雄太)

■「泡沫の遺伝子」
主人公は毎日コンビニで1リットルの炭酸水を買い、空になったペットボトルをどうやって捨てるかでやきもきする。ああ、わかるわかる、そういうのあるよねー、と頷きながら読んでいると、ラストに訪れるのは仰天の出来事であった。偶然なのか、それとも何かの啓示なのか。なぜか後者を信じたくなる。(千葉幸恵)

■「生成不純文学」
純文学に対するおちょくり? それとも、紋切り型の言葉やコピペといったでたらめの連打が文学だというメッセージ? 首尾一貫した物語があるでもなくないでもなく、不穏だったり間抜けだったりする作中作が行き当たりばったりのように繰り出される。改めて小説の自由を実感しました。(泉洋平)

001

 その後、3つのテーブルに分かれて15分ほど話し、気になった話題や疑問点をシェアして全体で話し合う。米光さんが「さっきから腹が立つ、苛々するという感想がたびたび出てくるのが気になるんだけど、それはどういうことなの?」と疑問を発した。

「馬鹿馬鹿しいこと書いてるくせに、文章が巧いのが腹立つんです」
「苛々しながらも、読むのを止められないわけですからね。まあ面白いんですよ」
「『人間性の宝石~』で茂林健二郎が言ってることは暴論なのに、なんだか説得されてしまうところがあります」
「リアリティ感じちゃうよね」
「ケーキをドカ食いして太ってしまうと悩むOLに、茂林が送った言葉が〈熟女絶叫ケーキ潮吹き8時間50人2枚組〉。これは食べたくなくなるなあと」
「パワーワードが効いている」
「『虹色ノート』の野糞男も、アイスの棒を会社のトイレに捨てて詰まらせて、会社のトイレ使用禁止になるって、なんかそういう人いそうだなって」
「野糞をするに至った経緯の作り込みが半端ないですよね」
米光 そうなんだよねー。人物の行動は突飛だけど、そこに至る経緯が執拗に書かれているから、作中内のリアリティがある。
「僕が好きなのは、『人間性の宝石~』で、茂林がロシアで二人の暴漢に襲われて、一人を滅多刺しにするところ。〈もちろんその合間に、傍らで苦しげにのたうち回っているもう一人をたまに刺すのも忘れなかった〉。このリアリティ」
「僕もその一文好きでした」
米光 古栗作品の登場人物は、随所で脱線するけど、細部でリアル。〈もう一人をたまに刺すのも忘れな〉いって書かれてて、確かに刺さなくちゃいけないなってはっとする(笑)。行動だけじゃなくて、文章でも脱臼してる。紋切り型のフレーズをあえて変な場面で使う。紋切り型のはずが紋切りになってなくて変な感覚に襲われるの。
「日常に溢れる文章表現そのものを、おちょくったような言葉の使い方ですよね」
「緻密に書くところと雑なところの落差が激しくて、そこでメリハリが生まれているな、と思います」
米光 緻密に書く箇所の選択理由が読めないんだよ。ちょっと不思議な文体だよね。
「インタビューで古栗さんが、書くことで相通じない『他人』に遭遇したいから共感できないものをあえて書いていると語っていました。そのために、スパムメールを読みまくったそうです。変わった修業をしているなあと思いつつ、そうやって表現を尖らせているのだなと納得もしました」
「鉤括弧の使い方がおかしいんですよ」
米光 たとえば?
「『虹色ノート』の序盤、
  〈美智子は(略)悠然と深呼吸をした。
  「酸素が前菜」
   すっかり上機嫌になり、手提げの中から弁当の包みを取り出した〉」
「あー、そこ笑った」
「絶妙に陳腐ですね」
「マンションポエムにありそう」
「悠然と深呼吸をした、酸素が前菜だと思った、と書くとそんなに面白くない。鉤括弧にすると、あたかも口に出して言ったみたいなおかしさが出る。テンポをうまく作っています」

 

(続きは本誌でお楽しみください。)
 構成:与儀明子

006

 

 

 

木下古栗『生成不純文学』2月24日(火)発売!

生成不純文学

試し読み一覧はこちら

【新連載】逢坂剛「百舌落とし」

閉じる