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物語を愛するすべてのひとたちへ-小説すばる

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Good old boys

著:本多 孝好

発売日:2016.12.15
定価:1,500円(本体)+税

ためらっていた一歩を踏み出す父親たち

 物語の要にあるのは、「牧原スワンズ」という小学生のサッカークラブだ。このスワンズ、地域に根ざした歴史あるクラブなのだが、〝どの学年も市内屈指の弱さを誇る〟チームであり、なかでも四年生のチームは、〝勝ち知らず〟という有様。それでも、スワンズの監督は、そんな四年生を評して言う。あの学年は、あれでいいのだ、と。どの学年よりも楽しそうにサッカーをやる、と。「一番弱いのに、一番楽しくやれる。それが才能じゃなくて何だ?」本書で描かれるのは、そんな四年生チームの父親たちのドラマだ。
 ユキナリパパは、半年前から生じた妻との溝を、どうすればいいのか悩んでいる。かつては地域リーグでプレーしていたユウマパパは、サッカーセンスのある息子のために、「スワンズ」から強豪クラブに移ったほうがいいのでは、と逡巡している。
 ヒロパパは、名門私立中学に進んだものの、持ち前の正義感とナイーブさから不登校になってしまった長男にかける言葉を探している。日本人の妻とブラジルからやって来たリキパパは、日本での自分の居場所を見つけられずにいる。ショウパパは、外泊を繰り返す高校生の長女から拒絶され、父親としての自信を失っている。
 他にも、ダイゴパパ、ハルカパパ、ソウタパパ、と父親たちにはそれぞれの悩みがあり、それぞれにもがいている。そんな彼らの背中を押すのが、スワンズのあり方であり、冒頭に書いた監督の言葉だ。そんな監督がいるクラブだからこそ、そのクラブに集う子どもたちは、親が気づかないうちに、しなやかに、健やかに成長を遂げていくのだ。そして、そんな子どもの姿に、父親たちもまた、ためらっていた一歩を踏み出していくのである。
 物語の後半、〝勝ち知らず〟だったスワンズ四年生チームが、一丸となって強豪クラブに向かって行く試合の場面がある。その姿に胸を熱くするのは、彼らの父親たちばかりではない。読者である私たちの胸もまた、熱く高鳴る。行け、スワンズ! 走れ、スワンズ! 放たれたボールの行方は、実際に本書で読まれたい。
「子供はすぐに大きくなります。親がその成長を見守れる時間は限られている。親には仕事だってあるでしょう。家のことだって、色々ある。わかります。けれど、週に一度。それが無理なら、月に一度でも、年に一度でもいい。子供と一緒にボールを蹴る時間を作ってほしい。そう思いました」
 限られた時間は、あっという間に過ぎて行く。その時間を、大事な人と共に埋めることが、埋められることが、何より幸せなのだ。スワンズの監督のこの言葉が、読後、静かに胸の奥に落ちていく。

Writing

吉田伸子(よしだ のぶこ)

‘61年青森県生まれ。書評家。

各新聞・雑誌に書評を掲載中。

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