close

物語を愛するすべてのひとたちへ-小説すばる

雨降る森の犬

著:馳 星周

発売日:2018.06.26
定価:1,650円(本体)+税

心のどこかで求めていた本当の家族

 悩みを抱える登場人物たちが、犬と共に暮らしていく中でそれぞれ成長し、自身の問題を克服するストーリーで、結末はとても感動的で涙を流してしまいました。
 一向に言うことを聞かない犬のワルテルに対して、雨音は日々葛藤します。徐々に絆を深めていくうちに、離れて暮らす母親との問題などで心を閉ざしていた雨音が、素直な自分を出せるようになっていく変化も見所です。
 イケメンの少し年上の男の子が自分の家の隣に住んでいるというシチュエーションも、女の子なら誰もが一度は憧れます。あまり心を開くタイプでない男の子が自分にだけ徐々に心を開いてくれたり、言葉は強くても無邪気な部分があったりと、好きにならないはずがないです。学生時代にそんな男の子が隣の家にいるなんて、なんていい青春を送っているのだろうと雨音を羨ましく思いました。
 途中までは二人の恋物語になるのかと思っていたけれど、最後は予想もしなかった展開になりました。正樹の犯してしまった間違いと、それを抱えて苦しんでいたということ。雨音は正樹の全てを受け入れ、二人が抱擁を交わした時に本当の兄妹になったような気がしました。雨音と正樹には互いに家庭環境が複雑という共通点があり、それがより一層二人の距離を縮める要因となりました。二人とも自分の実の家族を家族と思えず、心のどこかで真の家族を求めていたのです。
 雨音と暮らす伯父の道夫は二人を導く大きな存在ですが、特に印象に残ったのは、彼が「人間は過去と未来に囚われて生きている」「一瞬一瞬を、一生懸命生きるんだ。そうしてれば、いやなことなんて、(略)あっという間に過ぎていくぞ」と言う場面です。これは彼ら二人だけでなく、私たち読者にも刺さる言葉だと思います。自分の中で今までなかった考えだったのでとても響いたし、背中を押される言葉でした。そんな道夫の言葉の一つ一つも注目すべきところです。
 情景が浮かびやすい描写が多いことも魅力の一つです。雨音・道夫・正樹の三人ともカメラや絵などの表現者で、その三人の作品を通しても情景の美しいイメージが伝わってくるので、この作品が映像化されたらとても綺麗だろうなと思います。私は特に森にある大きな岩に雨音が横たわり、そこに一筋の光が差し込んでいるシーンがお気に入りです。また、タイトルや主人公の名前にもある「雨」の描写が非常に多く、一般的にネガティブなイメージのある雨を、ポジティブに捉えているところもこの作品の特徴です。
 若いからこそ生まれる悩みや葛藤など、読み終える頃には何か自分の中で心の変化が起こるかもしれない作品なので、特に女の子に読んでほしいです。

Writing

泉 はる(いずみ・はる)

'96年東京都生まれ。non-no専属モデル。

閉じる