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物語を愛するすべてのひとたちへ-小説すばる

梟の一族

著:福田 和代

発売日:2019.02.26
定価:1,700円(本体)+税

分断の時代の先を見据える、現代忍者エンターテインメント!

 滋賀県犬上郡の山中で、近隣とほとんど交わることなく暮らしてきた〈梟〉の一族。その集落が突如、襲撃を受けた。一族ただひとりの十代である榊史奈は、祖母に命じられるまま風穴へ避難。翌朝、彼女が目にしたのは焼け落ちた家々と、住人男性の死体だった。
 史奈は東京から駆けつけた集落出身の幼なじみ、長栖諒一と容子の兄妹に再会。何者かに母親を拉致されたという二人とともに、東京を目指す。ビジネスホテルに身を潜めた史奈だったが、そこもまた安全な場所ではないことに気づいてしまう。姿の見えない敵との壮絶な戦いが始まる─。
 骨太な現代エンターテインメントの書き手として知られる福田和代の『梟の一族』は、司馬遼太郎の名作『梟の城』から六十年を経て誕生した忍者アクション小説だ。集落を襲ったのは何者か? 十名あまりの住人はどこへ消えたのか? 史奈同様、何が起こっているのか分からない読者は、先を見届けるために夢中でページをめくるしかない。本書を語るうえでまず特筆すべきは、その卓越したストーリーテリングだろう。
 古より伝えられる忍びのネットワークを利用して(このあたりは伝奇小説の王道でわくわくさせられる)、大都会に潜伏する史奈と、事件を追う滋賀県警の刑事、長栖兄妹に関心を抱くスポーツ紙記者。複数の視点から描かれてゆく物語は、滋賀から東京へ、そしてまた滋賀へと舞台を移しながら、クライマックスシーンへと突き進んでゆく。
 史奈たち〈梟〉は、生まれてから一度も眠ったことがないという特異体質の持ち主だ。このユニークな設定によって、七日間にわたる物語はさらなる濃密さとスピード感を獲得することになった。しかも、著者はその設定に科学的裏づけをほどこし、〈梟〉の存在にリアリティを与えている。ダニエル・T・マックスのノンフィクション『眠れない一族』をヒントに執筆されたという本書は、睡眠をめぐる謎に迫ったサイエンス・ノベルとしても読み応え十分。
〈フツウ〉として生きられない痛みを感じながら、何者にも干渉されない夜の自由さを愛している史奈。本書はそんな少女がいくつもの出会いを通じて、成長してゆくさまも鮮やかに描いている。ときに不条理でときに残酷な現実。そこから目を背けることなく、凜々しく前へ進もうとする史奈の横顔には、あなたもきっとエールを贈りたくなるはずだ。
 アクションのツボを押さえつつも、それでいて単純な勧善懲悪にも陥らない。絶妙なバランス感覚で差別や分断の先にあるものを見せてくれる『梟の一族』は二十一世紀的にアップデートされた忍者小説の新機軸。壮絶にして美しい、今読まれるべき力作である。

Writing

朝宮 運河(あさみや・うんが)

'77年北海道生まれ。ホラーや怪談・幻想小説を中心に、本の情報誌『ダ・ヴィンチ』や怪談専門誌『幽』などに書評・ブックガイドなどを執筆。

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