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物語を愛するすべてのひとたちへ-小説すばる

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我ら荒野の七重奏

著:加納 朋子

発売日:2016.11.04
定価:1,500円(本体)+税

リアルな世のハハが、そこにいる

 待ってました! 待ってましたとも!!
 ワーキングマザーの主人公、山田陽子が、一人息子である陽介の小学校入学とともに始まった〝怒濤のPTAライフ〟を描いた前作『七人の敵がいる』から早六年。首を長く長く長~~くして待っていた続編が『我ら荒野の七重奏』である。
 まず、タイトルがいいじゃないですか。『我ら荒野の七重奏』。前作のタイトルは『七人の敵がいる』でしたが、今回は「七重奏」。「敵」ではなく「奏」になっていることに注目されたい。もっとも、前作ではワーキングマザーにとっての「七人の敵」を描きつつ、その実は「八人の仲間」を得るための物語になっていて、そこが素晴らしかったのだが、今回はタイトルからして「奏」なのだ。第1章の「独奏」から最終章の「七重奏!」に至るまでの過程は、読み応えたっぷりで、読み始めたら、止まらない。
 前作はPTAだったが、今回は部活動の親の会、だ。私立中学の受験に失敗し、公立中学に進学した陽介が入部したのは吹奏楽部(以下、吹部)。その吹部の親の会でのすったもんだの日々が描かれている。前作同様、真っ当で真っ直ぐな、それゆえ時に暴走しがちな陽子のブレーキ役になっているのが、同じくワーキングマザーである看護師の玉野遥。保育園時代からの陽子の良きママ友であり、陽子の〝動かし方〟を熟知している彼女の存在、これがいい。遥だけではない。吹部のために身を粉にして尽くしつつも、親の会のなかでの権力志向を持たない東京子という主婦を登場させたことで、物語がぐんと奥深いものになっている。
 物語の本筋(子どもの部活動に付随する親仕事と、それにまつわる人間模様)はもちろん素晴らしいのだけど、本書を支えているのは、こんなディテイル。夏コンの地区予選、子どもの舞台を観に来た陽子と礼子のお昼はコンビニのおにぎり。それは「子供の分はともかく、自分の食事に手をかける気はまったくなかったから」。これ、本当にわかる! そうなんですよ! そして、ないのは、気だけじゃなくて、時間もで、世のハハというものは、自分のことは後回しなんです、全てにおいて。こういうさりげない、でも現実感のある描写がそこここに散りばめられているからこそ、陽子のキャラが突出しすぎずに、物語の中で生きているのだ。そこがいい。
 あとがきで、加納さんが書かれているように、子どもたちの部活動での日々を描いた物語は数あれど、その親たちを描いた物語は、おそらく初めてだろう。普段は縁の下の力持ちである親たちに寄り添うような、加納さんの視点がいい。本書は部活に通うお子さんを持つ親御さんたちへの共感と暖かなエールなのである。

Writing

吉田伸子(よしだ のぶこ)

‘61年青森県生まれ。書評家。

各新聞・雑誌に書評を掲載中。

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