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物語を愛するすべてのひとたちへ-小説すばる

古本屋台

著:Q.B.B.(作・久住昌之 画・久住卓也)

発売日:2017.04.05
定価:1,200円(本体)+税

たとえばこんな夜を過ごしたかったんだ

 Q.B.B.の新作が出た! 待望のはずなんだが、待たされた気がしない。
 久住(昌之)さんは、他にも和泉晴紀さんとのコンビ(泉昌之名義)でも活躍しているし、谷口ジローさんと組んだ『孤独のグルメ』や、水沢悦子さん作画の『花のズボラ飯』などもある。ドラマもヒットして、テレビをつけても目にする。単著もたくさんあるし、音楽活動も盛んだ。つまり我々は常に「久住昌之成分」を摂取できて、満たされ続けている。
 どんな創作であれ、常に休まず作品を発表し続けること自体、大変なことのはずだが、久住さんは大変そうにみせない。大変そうにみせないことを、休まずやることと同じくらい大事なことと捉えている。奥田民生にも似た、ぶらぶらとしてみせながら働く手つきだ。そのおかげで我々は過剰に有り難がったり、仰ぎ見るような態度で作品を受け取らずにすむ。僕は彼のその手つきに信頼を抱いている。
 そして、たとえいつも摂取できていても、もう一人の久住(卓也)さんとの合作、Q.B.B.名義の作品の面白さは格別だ。
 新作『古本屋台』は古本屋の屋台というアイデア「だけ」で一作を描ききっている。それはすごいことだ。
 居酒屋かどこかで誰でも最初、盛り上がると思うんだ。「屋台の古本屋があったりして」「いいねえ」「移動するから探すの大変で」「本も厳選されてて」「親父にこだわりが」なんて言い合うのは楽しいだろう。一夜の席で盛り上がる、ただの夢想だ。普通は漫画にならない。古本屋が屋台? という驚きは、出会ったときがピークだからだ。凡百の書き手なら、店主の謎や過去に迫ったり、印象的な脇役や事件を出して、なんとか漫画にするだろう。そこを特に深めず、居酒屋で盛り上がるようなノリのまま一話二ページを繰り返して読ませる。主人公が屋台の古本屋に「ヘンだよなァ」というツッコミをいうまでにゆったり数話を費やす。酒は一杯だけという屋台のルールを、おずおずと入って来る脇役同様、読者は少しずつ知っていく。
 酒場で騒ぐ年でもない。ただテレビやネット観て寝るのはつまらない、たとえばこんな夜を過ごしたかったんだ。淡々とした十二コマの繰り返しで、気付けば気付かされる。声高でないやり方で嬉しくさせられるのは、彼らの過去作から通底している。
 黒ベタとグレーで描かれる夜の中に屋台の中で用いられる白。漫画の特性であるモノトーンが活きた卓也氏の作画が見事だし、この夜の気配はQ.B.B.の新境地でもあるのではないか。次作もぼんやりと待とう。

Writing

ブルボン小林(ぶるぼん・こばやし)

'72年生まれ。コラムニスト。小学館漫画賞選考委員を務める。著書に『マンガホニャララ』など。

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