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物語を愛するすべてのひとたちへ-小説すばる

原爆

広島を復興させた人びと

著:石井 光太

発売日:2018.07.05
定価:1,600円(本体)+税

復興の闘いのなかで、多くの人が手渡そうとしたもの

 2009年3月まで、広島市民球場は繁華街のど真ん中にあった。くるっと反対を向くと平和記念公園があり、原爆ドームが目に入る。ショッピングや遊びに行くとき、広島の人間は原爆ドームの姿を目にする。慰霊碑があり、原爆資料館がある。平和記念公園の向こう側にはフラワーフェスティバルで有名な平和大通りがある。
 身近な存在であるゆえに、あたりまえのようにその場所があることを受け止めていた。
 それが、どのようにして作られたのか。一九四五年八月六日午前八時十五分、“壊滅した”広島を平和都市として復興した人々はどのように力を尽くしたのか。そういったことを真剣に考えたことがなかった。
 あまりにも考えていなかったことを、本書を読んで気づかされた。打ちのめされた。
 長岡省吾は、原爆資料館の初代館長でありながら、歴史から“名前が消されてきた”人物。虚偽の経歴が残され、何をしてきたのか謎につつまれている。
 長岡は、どうして爆心地を歩き回って変形した石や瓦を集めたのか。それが、何につながっていくのか。資料館の展示品にはどういった背景があるのか。そして、公にその名や業績が語られなくなってしまったのは何故か。
 長岡が館長になるきっかけは、「原爆市長」と呼ばれた浜井信三との出会いである。原爆症と戦いながら、四期十六年間にわたって市政を率い、平和都市としての広島を作り上げた。資料館の設立を決意し、平和を発信する拠点の建設に精魂を傾けた。
 そのプロジェクトに呼応したのが、建築家の丹下健三。平和記念公園や資料館を設計し、作り上げる道のりは平坦ではなかった。
 原爆ドームの保存に貢献したのが高橋昭博。中学のときに被爆し、重い障害を負って生き延びた。後に資料館の七代目館長に就任する。
 広島の復興に命がけで取り組んだ人々を、この四人を中心に描いたのが本書だ。いくらでも情緒的に、泣かせるための物語にできるエピソードを、冷静な筆致で積み重ねる。
 読み終わって、いてもたってもいられず広島にもどった。平和記念公園、原爆ドーム、資料館を巡った。今までとまったく違った視線で、広島の街を眺めることになった。
 被爆者健康手帳を持っている父に当時のことを聞いてみたが、あまり答えてくれなかった。思い出したくないのかもしれない。
「同級生はもうみんなおらんようになった」
 復興の闘いのなかで、たくさんの人が手渡そうとしたものを、僕はちゃんと受け継いでいるだろうか。この本で描かれた出来事は、それを何度も問いかける。祈りのように何度も問いかける。

Writing

米光 一成(よねみつ・かずなり)

'64年広島県生まれ。ゲーム作家・ライター。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「想像と言葉」「はぁって言うゲーム」等。著作『自分だけにしか思いつかないアイデアを見つける方法』『思考ツールとしてのタロット』等。

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