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物語を愛するすべてのひとたちへ-小説すばる

僕らだって扉くらい開けられる

著:行成 薫

発売日:2017.11.24
定価:1,600円(本体)+税

ふがいない超能力者たちの奇跡

 二〇一二年に小説すばる新人賞を受賞した『名も無き世界のエンドロール』(応募時の「マチルダ」を改題)ほかどの作品も、細かなピースが最終的にかっちりとはまっていく快感を味わわせてくれるのが行成薫作品の特徴だ。新作『僕らだって扉くらい開けられる』も、各章の緩やかな繫がりが、最後にかっちりはまる連作短篇集だ。
 登場するのは特別な能力に目覚めた人たち。しかしまったく役に立たない力である。今村心司は小さな事務機器の会社に勤める二十三歳。売り上げにも貢献できず、冴えない日々を送る彼に備わるのは、〈自分が右手で持てる重さ〉のものを〈右に、十センチくらいだけ〉動かす能力である。しかも使えるのは一日一回が限度。だが、それを目撃した人物から思わぬ依頼を受ける。
 一方、二十七歳の会社員、金田正義は抜け毛が気になるお年頃。ケンカは弱いが名前通り正義感が強く「力が欲しい」と願ううちに、相手に触れて集中すると金縛りの状態にさせられるという、〝パラライズ〟の力を身につける。しかし力を使うと薄毛が進むというのが悩み。彼らの住む街には、スタミナ肉炒め定食が人気の食堂がある。店の一人息子、サトルもまた、読心術に目覚めたがゆえに二十年続けた教師の仕事を続けられなくなり、今や引きこもり状態の超能力者だ。
 女性たちもいる。怒ると側にあるものを燃やしてしまう発火能力を持つ主婦の井谷田亜希子は夫との意思疎通に不満を持ち、物に残留する思念が読み取れる能力を持つ女子高校生・御手洗彩子は潔癖症で他人のものに触れるのが嫌い。そしてシングルマザー音無希和は、三か月前に四歳の娘が忽然と姿を消してしまい、警察にも話して必死に捜している。彼女は娘には特別な能力があり、そのためさらわれたのだと主張している。
 一人ひとりのエピソードでも読ませるが、最終章では年齢も立場も異なる彼らが出会う。それぞれの能力はたいしたことがなくても、全員が揃って力を合わせた時、とてつもなく大きなパワーが生まれて問題解決……とは限らない。そんな単純な話ではない。それでも、人が自分の殻を破って一歩前に進もうとする時、そこにはポジティブな力が作用するのだと感じさせてくれる。と同時に、ささやかな能力というのは誰もが持っているもので、本人がそれを前向きにとらえた時、人生は変わるかもしれない、とも教えてくれる。それが本書なのである。
 超能力者たちをこんなふうに日常の光景の中に置きながらも、細部をきっちりと構築した上で、ささやかにみえて実は世界を変えるくらいの奇跡を浮かび上がらせる。著者らしさの詰まった、優しくて愛らしいエンターテインメント作品である。

Writing

瀧井朝世(たきい・あさよ)

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