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物語を愛するすべてのひとたちへ-小説すばる

アンカー書影 帯ナシ

アンカー

著:今野 敏

発売日:2017.05.26
定価:1,600円(本体)+税

マスメディアの最前線を描く、シリーズ最新作!

 現役閣僚の失言から、マスコミの追及が当の大臣を辞任にまで追い込んだ「東北でよかった」舌禍事件の顚末は、久々に報道の使命を目の当たりにした出来事だった。しかしながら、マスメディアの苦境に変わりはない。テレビや新聞といった従来の媒体は、インターネットに押され、依然深刻な危機に晒されている。
 今野敏が、マスメディアの最前線に焦点を合わせた〝スクープ〟シリーズで描く、おなじみ東都報道ネットワーク(TBN)のニュース番組「ニュースイレブン」の現場も例外ではない。視聴率が低迷する番組のテコ入れ策として、関西の系列局からやり手の人物が異動してきた。従来のやり方にことごとく異を唱える関西弁の男に、デスクの鳩村はイライラを募らせている。
 今回のタイトルである『アンカー』は、ニュースを掘り下げ、わかりやすく視聴者に伝える番組のメインキャスターのことだ。「ニュースイレブン」では、ベテランアナウンサーの鳥飼が、番組の顔としてその役割を果たしてきたが、突如漏らした去就をめぐるひと言が、スタッフに波紋を投げかけていく。
 シリーズは、連作短編集『スクープ』を皮切りに、長編の『ヘッドライン』、『クローズアップ』と、マスコミと警察が競合する捜査小説というユニークな形を作りあげてきた。そして、それにより一層の磨きをかけた本作で、異なった双方向から事件を追うこのシリーズ独自のスタイルを完成の域に近づけたと言っていいだろう。
 町田で大学生が犠牲になった刺殺事件は、未解決のまま十年が経過した。被害者の両親は、今も手がかりを求めて、駅前でチラシを配っている。新たに担当となった警視庁特命捜査対策室の黒田部長刑事と谷口巡査は、「ニュースイレブン」の専属記者、布施京一がこの事件に興味を持っていることに目を止める。
 実は布施には不思議な嗅覚があって、上司の鳩村との軋轢を飄々とかわしながら、数々のスクープをものにしてきた。また黒田という捜査官も、現場百遍ならぬ資料百遍の粘り強さに定評がある。警察は捜査、報道は取材と、事件へのアプローチの方法は異なるが、互いの接点を保ちつつも、それぞれの矜持を乱さず地道に事件を追う彼らの手で、やがて事件の謎は鮮やかに解き明かされていく。
 報道の自由、商業主義、許認可をめぐる国との関係という三竦みのジレンマに立ち向かうテレビ局スタッフたちのチームワークに心を揺さぶられる場面もある。しかし、彼らも胸に秘めているに違いない、第四の権力としてマスコミが果たすべき役割、すなわち国民の知る権利について改めて力強く説く作者の問題提起も読み逃してはならないだろう。

Writing

三橋曉(みつはし・あきら)

'55年東京都生まれ。文芸評論家・コラムニスト。国内外のミステリ、映画に造詣が深く、各紙誌で書評を担当。

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