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物語を愛するすべてのひとたちへ-小説すばる

たてがみを捨てたライオンたち

著:白岩 玄

発売日:2018.09.26
定価:1,600円(本体)+税

自分と向き合って生きることへの、揺るぎない肯定を描く。

 物語を動かしていくのは、三人の男たちだ。
 出版社に勤める直樹は、身重の妻・可南子が激しい悪阻に悩まされており、積極的に家事を引き受けることで、妻の辛さに寄り添っている。そのことを可南子は評価してくれるものの、直樹自身は、仕事ではぱっとしない自分にどこか苛立ちを抱えている。
 大手の広告代理店に勤める慎一は、二年前に妻の葵と別れて以来、独身に戻ったタワマン暮らしを謳歌するどころか、自分でも原因が分からない空疎さを抱えている。唯一つるんでいる〝連れ〟は、数年前に飲み会で知り合って以来親しくしている弟分のようなフリーライターの須田ぐらい。
 市役所に勤務する幸太郎は、二年前に年上の彼女に手酷く失恋して以来、その傷を埋めるかのようにアイドルにハマっている。精神的にもハードな日々の業務からの逃避と、リアルではイケてない自分から束の間目をそらすための「オタ活」は、幸太郎にとっての〝避難場所〟でもある。
 25歳の幸太郎、30歳の直樹、そして35歳の慎一、と三人の年齢設定と、それぞれの背景が絶妙だ。典型的な非モテ系の幸太郎、とりたててイケてもいないけれど、イケてないわけでもない既婚者の直樹、そしてバツイチで地位もカネもあるモテ系の慎一。一見、共通項がなさそうに見えるこの三人だが、実は抱えている問題の根っこは同じで、それが本書のテーマにもなっている。
 彼らに共通しているのは、〝男性性に対する座りの悪さ〟のようなものだ。妻に対する気遣いはほぼ満点、母親からも「ホントに優しい子に育った」と言われる直樹だが、仕事の面では今ひとつ。花形の出版部から、社内では二軍扱いの雑誌部に配属替えになったこともあり、家庭を犠牲にしてもばりばりと仕事をこなす、いわゆる〝デキる男〟への憧れが、心の奥に巣くっている。
 幸太郎は、小学生時代から〝キモメン〟扱いされてきたことに加え、生まれて初めての恋が、手酷い失恋に終わったことから、女性に対して幻想=一方的な夢しか抱けない。それが大人になりきれないからだとわかってはいるものの、かといってそんな自分を変えることもできない。
 三人の中ではもっとも恵まれているように見える慎一でさえ、妻の本当の気持ちと、自分の愚かさ─男であることの優位性を信じて疑わなかった─に気づくことができたのは、離婚後二年経ってから、ようやくだった。
 本書は男子の自分探しの物語、ではない。そこが本当に素晴らしい。本書は「人間性探しの物語」なのだ。そこにあるのは、女性、男性問わず、自分と向き合って生きることへの、揺るぎない肯定である。

Writing

吉田 伸子(よしだ・のぶこ)

‘61年青森県生まれ。書評家。

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