日本の闇を暴く漢たちの反骨精神が炸裂する
超弩級エンターテインメント!


 破天荒な漢達が戦場に還ってきた!
『ビンゴ』の小田健、『脱出』の志波銀次、『突破』の大文字一徹。西村健の新作『劫火』は上下巻一四〇〇ページを超えるオールスター総出演の極上エンターテイメントだ。
 「アクション小説は『脱出』でやり尽くした感があったが、編集者に続編をせっつかれてね。前の三作を超えるには奴等全員を暴れさせて日本中グチャグチャにしてやろうと」
 苦笑する著者の言葉どおり、オダケンは小樽で携帯核爆弾を持ち込んだ謎のロシア人傭兵“13人の戦士”と遭遇戦、銀次は金沢で最強の刺客“傷”の急襲を受ける。一徹はひょんなことから少年タツヤと小倉から二人旅に出るが、タツヤの持つノートパソコンを付け狙うCIAの影が迫る。
 漢達は追撃と逃亡、鯨飲馬食を繰り広げ、核の危機迫る決戦の地・東京へと集結する。
 「プロローグだけで一年掛かりました。別々の事件を一つに収斂させるためには導入部が最も重要ですからね。9・11以前に執筆を開始したので、物語に関連する事象が現実に起これば何度も書き直しました」
 苦労の末、第一部を書き上げてから作品の展望がはっきりしたそうだ。
 一方東京では、政府内に巣くう極右集団が国民統制と対米関係是正による“日本再生”を目論み策動する。呉梨花や九鬼、桐葉万季らオダケン達の仲間はその陰謀に巻き込まれ、真相解明に乗り出す。
 著者は現実を虚構に巧みに織り交ぜ戦前・戦後の日本の状況を日米関係を軸に炙り出してゆく。本作に引用された“99年体制”―日米ガイドライン関連法、改正住民基本台帳法、国旗国歌法などを立て続けに成立させ、今なお右に梶を切るこの国の姿は、先の大戦前夜にも重なる。
 「この国は戦後の精算が済んでいない。だから国家の路線がいまだに定まらず揺れ動いている。そんなときに官僚は反動的に国民を監視したがるんです」
 また物語の影のキーパーソンとして岩淵辰雄が描かれている。知られざる、戦後日本を象徴する重大事項に関与した人物だ。
 「雑誌記者として取材した中で、岩淵が戦後日本に与えた影響は印象深いものでした。世の中、法律で物事が動いていることは表面的なものでしかない。大きな流れはいつも裏の話で決まるものです」

(この続きは本誌2月号で御覧ください)
西村 健(にしむら・けん)
‘65年福岡生れ。労働省に入省後、フリーライターに転身。‘96年『ビンゴ』でデビュー。著書に『脱出―GETAWAY』『突破―BREAK』など。
若き悩みを、理不尽に訪れる不幸への抵抗を、
歪で普通な人間関係をえぐりつつ描く青春小説


 昨年五月に第二十一回太宰治賞を受賞し、文壇にデビューを飾った津村記久子さん。大学四年生、人間関係に悩むともなく悩み、他との距離感が近すぎて遠すぎる、不器用な女の子「ホリガイさん」の葛藤悶絶脱皮飛翔を描いた受賞作はいかにして生まれたのか。
 「幼稚園の頃からお話の好きな子供やったんです。小学校の高学年でライトノベルを覚えて、中学では音楽に夢中になってちょっと小説から離れたんやけど、二十歳過ぎてまた書き始めました。就職して忙しくて少し書かない時期が続いたんですけど、あるきっかけがあって一昨年から本気で書くことに取り組むようになりました」
 大阪の女性らしく、快活で会話の先を読んだテンポのいい話し方をする津村さん。その口から驚くほど明るく語られた執筆のきっかけとは、実の祖母の死だった。それは受賞作の中にも主人公の身の回りの出来事として描かれている。
 「もともと私が好きだった小説、書きたかった小説はとにかく『おもしろい話』でした。どきどきわくわく笑えて泣けてっていう。でも二十六歳のときに祖母が亡くなって、死とかそれに準ずる悲しいことというのは怖いくらいに身近なんやな、と考えたことからこの作品を書くに至りました」
 ホリガイさんの大学生としての日常を坦々と追うようにして描く作中には、さまざまな人物が入れ代わり立ち代わり登場し、少しずつ形の違う不幸をホリガイさんの眼前に晒しては去っていく。金も恋愛もすべて意のままだと驕っている男、恋愛しか頭にない女、気の弱いありふれた善人、悪気のない馬鹿、さばけた中に芯の強さを窺わせる女、何を考えているのかわからぬままに逝ってしまった男……。ホリガイさんはその独特の雰囲気からか、そういった人々の愚痴を聞かされることが多い。そんな彼女のキャラクターとしての魅力が、作中の登場人物だけでなく、この物語を牽引する力の一端を担っていることは間違いない。

(この続きは本誌2月号で御覧ください)
津村記久子(つむら・きくこ)
‘78年大阪生まれ。‘05年本作で第21回太宰治賞を受賞し、デビュー。現在は報告書の製本をする会社に勤める傍ら、執筆活動を続ける。